
会社を経営するうえで「解雇」「賃金」「時効」は、絶対に知っておくべき重要なテーマです。
これらを正しく理解しないまま独自のルールで対応してしまうと、従業員から訴えられたり、裁判沙汰になったりするリスクがあります。
例えば…
- 「明日から来なくていいよ」と一方的に伝えたら、違法解雇とみなされて賠償請求が発生する可能性
- 残業代を正しく支払っていないと、3年分まで遡って多額の支払いを求められる
- 給料の支払いルールを守らないと、労働基準監督署から指導が入り、営業停止など大きな不利益を被るリスク
「そんなつもりはなかったのに……」と後悔しないためにも、ぜひ本記事で解雇・賃金・時効のルールを基礎から理解していただきたいと思います。中学生でも分かるように、専門用語はできるだけかみ砕いて説明しますので、日々忙しい経営者や個人事業主の方でも取り組みやすい内容となっています。
目次
- 解雇の3つの種類(普通解雇・懲戒解雇・整理解雇)
- 解雇制限(解雇してはいけないケース)
- 解雇の予告と「解雇予告手当」
- 解雇予告が不要なケース(試用期間・短期契約など)
- 賃金の5つの原則(現金払い・直接払い・全額払いなど)
- 割増賃金の仕組み(残業・休日・深夜)
- 休業手当の計算方法
- 給与未払いのリスクと対応策
- 賃金の未払いは何年まで請求されるのか?
- 退職金の請求権と時効
- 事例1:「突然の解雇」で従業員に訴えられたA社の失敗
- 事例2:「残業代未払い」が会社を倒産の危機に追い込んだB社
- 事例3:「給料の天引き」が違法だったC社
- 経営者が守るべき3つのポイント
- 労務トラブルを未然に防ぐ対策
1. 解雇のルールと注意点
解雇の3つの種類
従業員を辞めさせる“解雇”には、大きく分けて3つの種類があります。これは中小企業や個人事業主であっても、必ず知っておく必要があります。
種類 | 説明 | 具体例 |
---|---|---|
普通解雇 | 従業員の能力不足や勤務態度に問題があるなど、通常の理由で行う解雇 | 仕事のミスがあまりに多く、何度注意しても改善が見られない |
懲戒解雇 | 重大な規律違反や不正行為があった場合に行う解雇 | 会社のお金を横領、取引先への情報漏洩、重大な信用失墜行為 |
整理解雇 | 経営不振によって人件費を削減しなければ会社の存続が難しい場合に行う解雇 | 売上や利益が急激に落ち込み、どうしても人員整理が必要になる |
- 普通解雇は、能力や態度に明確な問題がある従業員に対して行われますが、正当性を立証するためには十分な注意や指導の記録が必要です。
- 懲戒解雇は、解雇の中でも最も重い処分であり、社会的評価を下げるため、裁判でも厳しく正当性が問われます。
- 整理解雇は、経営不振による人員削減を目的としますが、「本当に人員削減の必要があるか」「解雇以外の方法はないか」などを厳密に検討する必要があります。
解雇が制限されるケース
解雇は、経営者の判断だけで自由に行えるわけではありません。法律によって「この状態なら解雇してはいけない」と定められたケースがあります。代表的なものは以下のとおりです。
- 業務中のケガや病気で休職中の従業員(+その後30日間)
業務上の災害(労災)による休業期間中に解雇するのは、原則として違法とみなされます。 - 産休・育休中の従業員
妊娠・出産・育児休業中の解雇は、本人が希望した場合などを除き、基本的に禁止されています。 - 労働組合の活動をしている従業員
従業員が労働組合で正当な活動を行っていることを理由とした解雇は、違法行為と判断される可能性が高いです。
違反事例:建設業のA社
ある建設業のA社では、現場で作業していた従業員が落下事故に巻き込まれ、長期療養が必要となりました。社長は「もう現場に戻れないだろう」と判断し、本人に通知もなく解雇。しかしこれは業務上のケガによる休業中の解雇に当たり、労働基準法違反と判断され、多額の損害賠償を支払う羽目になりました。
解雇の予告と「解雇予告手当」
従業員を解雇する際は、少なくとも30日前に解雇の予告をしなければなりません。もし予告をせずに即日解雇する場合は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。
- 予告解雇の流れ
- 解雇する予定日を30日以上前に伝える
- 解雇の理由を明確に示す(できれば書面化し、社内でも保管しておく)
- 即時解雇(予告なし)の場合
- 解雇予告手当:30日分以上の平均賃金を一括で支払う
解雇予告が不要なケース
法律上、次のようなケースでは解雇予告が不要になる場合があります。ただし、適用できるかどうかは非常に厳しく判断されるため、安易に利用するのは危険です。
- 試用期間中で、働き始めて14日以内に解雇する場合
- 臨時や季節的な契約で、契約期間が2ヶ月以内の場合
- 社員側が重大な違法・不正行為をし、懲戒解雇に当たる場合
2. 賃金のルール
賃金の5つの原則
日本の労働基準法では、「どのように給料を支払うか」という点が細かく決められています。これを守らないと罰則を受ける可能性もあるため、注意が必要です。
- 現金払い
- 給料は「現金」で支払うのが原則。ただし、従業員の同意があれば「銀行振込」も可能です。
- 直接払い
- 給料は必ず従業員本人に直接渡す(または振り込む)必要があります。家族に代理で渡すのは基本的にNGです。
- 全額払い
- 法律や労使協定で認められていない控除を勝手に行うのは違法です。いわゆる“天引き”は、社会保険料や税金などに限られます。
- 毎月1回以上支払い
- 2ヶ月に1回しか支払わないなどは違法。原則として月に1度は支払わなければなりません。
- 一定期日払い
- 給料日を「毎月25日」や「毎月末日」など一定の日付に決めておく必要があります。
違反事例:B社
B社は、「経理の都合がいいから」と2ヶ月に1回まとめて給料を支払っていました。これは「毎月1回以上」支払う原則に反しており、労働基準監督署から是正勧告を受けて、直ちに支払いサイクルを変更することになりました。
📢 割増賃金の仕組み(残業・休日・深夜)
従業員が法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて働いたり、休日や深夜に勤務したりした場合は、“割増”した給料を支払わなければいけません。
- 残業(時間外労働):基本賃金の25%以上を上乗せ
- 休日出勤(法定休日):基本賃金の35%以上を上乗せ
- 深夜労働(22時~翌5時):基本賃金の25%以上を上乗せ
違反事例:コンビニチェーンC店
大手コンビニのフランチャイズ店C店では、深夜バイトの割増賃金を通常の時給で支払っていました。アルバイトの学生が「割増賃金が支払われていない」と気づき、労働基準監督署に相談。最終的に過去3年分の未払い深夜手当を一括支給することになりました。
休業手当の計算方法
会社の都合で従業員を休ませる(休業させる)場合には、「平均賃金の60%以上」を休業手当として支払う義務があります。
- 休業手当 = 平均賃金 × 60%(以上)
- 平均賃金とは:直近3ヶ月の賃金総額をその期間の日数で割って算出します。
給与未払いのリスクと対応策
もし給与の一部や割増賃金を未払いにしていると、従業員が後からまとめて請求してくる可能性があります。対応策としては次のとおりです。
- 勤怠管理を徹底する
- タイムカードやシステムで正確に労働時間を把握する。
- 就業規則や給与規定を明確にする
- 割増賃金や休業手当の計算方法をルール化し、従業員にも周知する。
- 早めに専門家へ相談する
- 社会保険労務士や弁護士に確認することで、大きなトラブルになる前に解決策を見つける。
3. 時効のルール
「時効」というのは、ある一定期間が過ぎると法律上の請求ができなくなる制度です。ただし、給与や退職金の未払いに関しては、比較的長い年数まで請求が認められます。
項目 | 時効期間 |
---|---|
未払い賃金・残業代 | 3年間 |
退職手当(退職金) | 5年間 |
- 未払い賃金(給料や残業代)の時効は3年
2020年4月の法改正以前は2年でしたが、現在は3年となっています。 - 退職金の時効は5年
退職金の支払い条件や金額は就業規則によって異なりますが、時効が5年あることを念頭に置きましょう。
違反事例:D社
D社は従業員にみなし残業制度を適用していましたが、実際の残業時間がみなし時間を大幅に超えていたことが発覚。過去3年分の残業代を一括で請求され、多額の資金を用意する必要に迫られました。
🚨 4. 実際の企業トラブル事例
事例1:「突然の解雇」で従業員に訴えられたA社
- 背景:A社の社長は、勤務態度が悪い従業員に注意をしていたが、ある日突然「明日から来なくていい」と告げた。
- 問題点:解雇予告を行わず、解雇理由も明確に伝えていなかった。
- 結果:従業員は不当解雇として労働基準監督署に相談し、最終的に裁判に。A社は解雇予告手当だけでなく、和解金も含めて300万円以上を支払う羽目になった。
事例2:「残業代未払い」が会社を倒産の危機に追い込んだB社
- 背景:B社は小売業を営んでおり、ピーク時には従業員の残業時間が増えていた。しかし、経営者は「そこまで厳密に払わなくても大丈夫」と軽視。
- 問題点:従業員が一斉に過去3年分の残業代を請求。金額は合計2,000万円を超えた。
- 結果:予想外の大きな出費をまかなえず、銀行への返済も滞ってしまい、倒産寸前まで追い込まれた。
事例3:「給料の天引き」が違法だったC社
- 背景:C社は「ユニフォーム代」「備品代」を給料から差し引いていたが、従業員には説明や同意を得ていなかった。
- 問題点:労働基準法の「全額払いの原則」に違反。会社独自のルールでの天引きは基本的に認められない。
- 結果:従業員が労働基準監督署に訴え、C社は過去にさかのぼって差し引いた分を全額返金。さらに是正勧告によって社内ルールを大幅に見直す必要があった。
5. まとめ
経営者が守るべき3つのポイント
- 解雇は慎重に行う
- 解雇予告や解雇理由の明示を徹底し、違法解雇にならないように注意。
- 特に業務中のケガや産休・育休中の従業員への解雇は法律違反になりやすい。
- 給料の支払いルールを守る
- 賃金の5原則(現金払い・直接払い・全額払い・毎月1回以上・一定期日払い)を遵守。
- 残業・休日・深夜勤務には割増賃金が必要。勤怠管理システムなどで厳格に管理。
- 未払いの賃金や残業代は早めに清算する
- 時効は3年なので、過去の未払い分をまとめて請求されると大きな負担に。
- 就業規則や社内ルールをきちんと整備し、定期的に専門家のチェックを受ける。
労務トラブルを未然に防ぐ対策
- 就業規則・雇用契約の明確化
- 解雇・賃金・残業の取り扱いを細かく書面にし、従業員に周知する。
- 社内研修やミーティングの実施
- 管理職や店長クラスに、労働基準法などの基礎知識を学んでもらい、現場で適切に運用する。
- 専門家への早めの相談
- 弁護士や社会保険労務士の力を借りれば、法的なリスクを最小限にできる。
会社や事業を続けていくうえで、解雇・賃金・時効に関する知識は欠かせません。特に中小企業や個人事業主は、日常業務に追われるあまり、労務管理が後回しになりがちです。しかし、万が一トラブルが発生した場合、その代償は非常に大きいものとなります。
本記事で紹介したルールや事例を参考に、まずは自社の就業規則や給与計算方法を点検してみましょう。もし不安や疑問があれば、早めに専門家に相談することをおすすめします。正しい知識を持って、従業員とも信頼関係を築きながら、健全な経営を続けていきましょう。